女性のうつ病の患者様の数は、男性の約2倍ともいわれています。女性の場合、一生涯の内、思春期、妊娠・出産、さらには更年期(閉経期)といったライフサイクルの中で、女性ホルモンの産生が激しく変動し、それが気分の変動に大きく影響すると考えられています。
うつ病になると、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質が不足しますが、女性ホルモンの一つであるエストロゲンには、これらの神経伝達物質の正常な働きを助ける作用があることが近年の研究で明らかになってきました。
女性のうつ病の発症率は、このエストロゲンの変動の激しい時期に高くなっています。したがって、女性の場合、こうした女性特有の医学的要因に、心理的、社会的・環境的要因などが加わって、うつ病を招きやすくなっていると言われています。
女性特有の気分障害(うつ病は気分障害の一つ)としては、以下の4つがよく知られています。
Ⅰ. 月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)
Ⅱ. マタニティ・ブルー
Ⅲ. 産後うつ病
Ⅳ. 閉経期うつ病・閉経後うつ病
上記の4つについて、これから順を追って説明をしていきます。

Ⅰ. 月経前症候群・月経前不快気分障害
月経前に体質や気分がすぐれなくなることはよくあることですが、それが余りにも強い場合には、「月経前症候群(PMS)」、または「月経前緊張症」と呼ばれます。主な症状には以下のようなものがあります。
☑ 気分の落ち込み
☑ イライラ感
☑ 不安感
☑ 感情の起伏の変化(情緒不安定)
☑ 集中力の低下
☑ 無気力、疲労感
☑ 不眠
☑ 食欲の変化(亢進または減退)
☑ のぼせ
☑ めまい
☑ 頭痛
☑ 乳房痛
☑ 腰痛、下腹部痛
これらが、月経の数日から一週間前ぐらいに始まり、月経直前にピークになり、月経開始と共におさまります。月経前症候群は、女性の20~50%に見られると言われています。

月経前症候群の症状がさらに酷くなり、月経周期ごとに決まって強い精神症状を起こし、それが1年以上も続くような場合は、月経前不快気分障害(PMDD)と診断されることがあります。その殆どが10~20代に発症することが特徴です。月経前不快気分障害の症状としては、以下のようなものがあります。
☑ ゆううつ感
☑ 絶望感
☑ 無価値感・罪悪感
☑ 怒り
☑ 焦燥感
☑ 対人葛藤
月経前不快気分障害(PMDD)がなぜ一部の女性に起こるのか、その理由はまだ分かっていませんが、恐らく下垂体ホルモンと卵巣のホルモンの複雑な相互作用に、エストロゲンの急激な変動が何らかの影響を与えているのではないかと考えられています。
なお、月経前不快気分障害の陰に、本当のうつ病が隠れていることがあるので、その点も注意が必要です。

Ⅱ. マタニティ・ブルー
出産後の女性に見られる、比較的軽いうつ状態です。「ベイビー・ブルー」とも言います。産後2~10日目頃に発症しますが、大抵は一過性のもので、それほど重症にならずに、1~2週間程度で落ち着きます。マタニティ・ブルーの頻度は、日本では9~25%と言われています。症状としては、次のようなものがあります。
☑ 軽い落ち込み
☑ 涙もろさ
☑ 疲労感
☑ 不安感
☑ 焦燥感
☑ 不眠
☑ 集中力の低下
マタニティ・ブルーの原因は、妊娠中に増加していた女性ホルモンが、出産によって急激に低下するため、そのバランスの崩れが一因ではないかと言われていますが、まだ詳しいことは分かっていません。初産婦や、月経前症候群を経験された人、やや神経質なタイプの人に多く見られるといった特徴があります。また、産後の不安定な体調に加えて、慣れない育児といった環境も関係していると思われます。
マタニティ・ブルーは症状が軽いため、単なる産後の疲れかと思い、発見が遅れがちになるので注意が必要です。放置すると重症化することもあります。

Ⅲ. 産後うつ病
産後のマタニティ・ブルーよりも症状がより強く、また長引く場合には、産後うつ病(産褥期うつ病)が疑われます。産後うつ病は、大体産後2~5週ぐらいに起こるもので、特徴的な症状としては、以下のようなものがあります。
☑ 不安感やイライラ感が強い
☑ ゆううつ感
☑ 不眠
☑ 育児に対する自信をなくす
☑ 育児に無関心になる
産後うつ病は、マタニティ・ブルーとは違って、放置すると治るのに時間が掛かります。時にはこの病気が原因となって、母子心中をはかったり、子どもを虐待したりするといった事件に繋がることもあり、適切な治療が必要です。また、産後うつ病を経験した人は、その後の出産でもうつ病にかかる危険性が高いので注意が必要です。
Ⅳ. 閉経期うつ病・閉経後うつ病
加齢による卵巣機能の低下によって、女性ホルモンの分泌が減少し始め、閉経を迎える45~55歳の時期を一般に「更年期」と呼びます。この時期の女性ホルモンのバランスの乱れから、「更年期障害」と言われる様々な症状が出てきます。身体の不調を訴える不定愁訴も起こりやすくなります。
また、この時期には、体調面だけではなく、子どもの自立、老いへの不安、近親者の介護や死といったことも起こりやすくなり、環境面でも多くのストレスを受けやすい時期です。このような女性ホルモンの変化と環境の変化、そして本人の性格的な要因などが関わって、うつ病を発症する人が少なくありません。
閉経期うつ病・閉経後うつ病の主な症状には、次のようなものがありますが、通常、症状はそれほど重くありません。
☑ 不眠
☑ 抑うつ気分(気分の落ち込み)
☑ イライラ感
☑ のぼせ、ほてり、発汗
☑ 頭痛
☑ めまい
☑ 疲労感、倦怠感
☑ 肩こり
☑ 動悸
ただ、閉経期うつ病(閉経後うつ病)の問題点として、更年期障害による不定愁訴と、うつ病による不定愁訴とを見分けることが難しいということがあります。そのため、うつ病の症状を更年期障害の症状と見誤り、治療が遅れてしまうことがあるので、注意が必要です。
また、つらい症状があっても「更年期だからしようがない」と諦めてしまう人もいますが、落ち込みが酷い時には、心療内科などの専門医に相談しましょう。うつ病からくる症状であれば、治療によって治すことができます。

当院では、うつ病をはじめ、
更年期障害、躁うつ病、睡眠障害(不眠症)、
心身症、自律神経失調症、強迫症、適応障害、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群(IBS)、不安症、ストレス関連障害など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
なお、漢方薬による治療をご希望の患者様は、
診察時に医師の方にぜひご相談下さい。当院のような心療内科では、
健康保険適用で処方することも可能です。
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:坪井 康次監修『改訂版 うつ病』


