ADHDとは、「Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder」の略語であり、日本では「注意欠如多動症」等と訳されます。身体に何らかの問題は見られないものの、行動の特徴から診断される症状です。1902年には、すでに行動の抑制が効きづらい子どもの事例が、医学雑誌『The Lancet』に掲載され、その頃から脳との関係も注目されてきました。その後の研究により、症状には個人で差があり、症状の程度が一人ひとりで異なっていることも分かってきました。
発達心理学者のエドモンド・ソヌガ・バーグ氏が2003年に発表した理論によれば、ADHDの症状が現れる原因として、主に二つの経路が知られています。一つは「実行機能の破綻」です。注意を持続できないという問題や意図したことを計画的に実行したりすることができないという問題です。
もう一つは、報酬の遅延に耐えられずに衝動的に他の報酬を選ぶという「報酬系神経回路の問題」です。報酬が得られるまで他のもので気を逸らしたり、紛らわせたりすることが多動や不注意の原因になっていると考えられています。

ADHDの症状と関係している脳の報酬系
近年の脳科学の研究では、この二つの経路は脳にある報酬系のしくみと大きく関わっている可能性が明らかにされつつあります。報酬系とは、脳の快や不快の反応を表す脳の回路のことです。ドーパミンという神経伝達物質が脳に信号を与え、情動や行動を促したり、抑制したりしています。
ドーパミンが作用する神経回路はA9回路とA10回路の二つの回路が知られています。A9回路は身体行動や行動の調整機能に関わっており、A10回路は行動の実行を判断したり、決断したりする機能に関わっているとして理解されています。
この二つの神経回路で、ドーパミンが上手く作用しないなどの理由で、ADHDの症状に繋がっているのではないかという研究が報告されています。その結果、自分の情動や行動を上手く調節したり、抑制したりすることが出来ずに、社会に適応しづらくなる可能性も高くなるのです。

ADHDと短期記憶(ワーキングメモリ)
脳には、ある情報をもとに行動の計画を考えたり、作業をこなすための情報の取捨選択を担ったりするワーキングメモリという機能があります。ワーキングメモリの機能は、大脳の3割を占めている前頭連合野という領域が担っているとされています。
ワーキングメモリは、外界から入ってくる情報や過去の記憶から、次の行動に必要なものを取捨選択して、行動を決めます。実際の行動を担当するのは、複雑な身体運動を制御する高次運動野です。この領域にワーキングメモリを介して情報が伝達されます。次にワーキングメモリは、行動の動機づけをするために、情動を司っている大脳辺縁系に情報を伝達します。このように、前頭連合野にあるワーキングメモリは、脳全体を制御する司令塔としての役割を果たしています。
ADHDの行動特性を持っている人の中には、ワーキングメモリの機能の働きが低下している人が少なくありません。その理由はいくつかあります。まず、ワーキングメモリを司っている前頭連合野の体積が人よりも少ない傾向があるからです。
また、ワーキングメモリは脳の司令塔として脳全体に情報を伝達して、行動や情動の調整を司っています。ところが、ADHDの行動特性を持っている人の脳は、そもそも報酬系が上手く対応できない問題も発生しています。このように、ワーキングメモリの機能低下や報酬系の機能不全によってADHDの様々な症状が引き起こされると考えられています。
ワーキングメモリは、決められた情報容量の中で、情報の処理と保持を行っています。例えば、“物忘れ”は、必要のない情報を過度に取り込んでしまったり、取り込んだ情報を適切に処理できなかったりすることで起こるとされています。ワーキングメモリの機能低下は「忘れやすい」という症状を引き起こしているのかもしれません。

ADHDは薬で治療できるのでしょうか?
これまで記載してきましたように、多動・衝動性や注意欠如の特性が現れるADHDは、脳の実行機能系と報酬系の神経回路の機能不全が大きく関わってきています。
神経伝達物質は、脳の中にある別の神経細胞の受容体に結合することで、その情報をはじめて伝えることができます。この時、受容体と結合しなかった神経伝達物質は、「再取り込み口」から神経細胞に取り込まれて再利用されます。
ところが、ADHDの人の脳の中では、遺伝的に実行機能系の神経伝達物質であるノルアドレナリンと、報酬系の神経伝達物質であるドーパミンが過剰に再取り込みされやすいとされています。このため、神経伝達物質が少なくなるので、情報が神経細胞に伝わりづらくなり、機能不全を起こすと考えられているのです。
ADHDの治療薬は、再取り込み口の入り口にくっついて、神経伝達物質の再取り込みを阻害します。その結果、ノルアドレナリンとドーパミンの量が増え、情報伝達が改善され、症状が緩和し、自分の力で行動を調整できるようになります。
他の発達障害と同じように、ADHDの治療目標は、症状をなくすことではなく、行動の特性と折り合いをつけて生活することになります。そして、治療薬はそのための補助として用いることが推奨されているのです。

当院では、
睡眠障害(不眠症)、不安症、うつ病、躁うつ病、適応障害、
強迫症、摂食障害、月経前症候群(PMS)、統合失調症、
過敏性腸症候群、自律神経失調症、心身症、パニック症など、
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心身両面からの治療とサポートを行っております。
当院では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:『ニュートン別冊 精神科医が語る 発達障害のすべて 改訂第2版』


