日本で1年間に自律神経失調症と診断される人はおよそ65万人、潜在的な患者様はその10倍にのぼると推定されています。日本人の約20人にひとりが、慢性疲労、不眠、頭痛やめまい、手足の冷え、食欲不振、下痢などの何等かの不調を抱えていることになります。なぜ、これほど多くの人が心身の不調に悩まされているのでしょうか。
一つには、ひと昔前にはだるい、眠れないといった症状を医師に訴えても、具体的な病気が見つからなければ「病気ではありません。気のせいでしょう」と片付けられ、病気として診断されなかったということもあります。そのような訴えに対して「自律神経失調症」と診断されることが多いようです。しかし、現代では実際、「自律神経失調症」は病名ではなく、原因はわからないが自律神経失調症の症状がある状態を総称してそのように呼んでいます。
現代社会は交感神経を刺激し続ける
見知らぬ他者と遭遇する、というのは本来動物にとって大きなストレスです。クマやライオンは、自分の仲間以外が自分のテリトリーに入ってくれば警戒し、威嚇します。このようなとき、交感神経が体を戦闘モードにし、危機に備えます。しかし、現代社会、とくに都会では、毎朝通勤ラッシュで多くの他者と狭い車内で密着し通勤することは日常の光景です。また、仕事では、事務職の場合、体を動かすことなくパソコンの画面を見つめ続けます。
このように交感神経を興奮させる場面が、現代社会では日常となっています。即ち、無意識のうちに常に戦闘モードで居続けることを強いられているといっても過言ではないでしょう。そして、交感神経を刺激し続けることで発展してきたのが、現代社会と言えるのです。現代の都市では、夜中も明かりが消えることはありません。それはまるで交感神経を働かせ続ける現代社会を象徴しているかのようです。
人類を含む生物は太古の昔から、数百万年かけて主に自然のもたらす外部環境の変化に適応し、体の恒常性(ホメオスタシス)を維持するために自律神経などの身体システムを進化させてきました。身体の恒常性を維持することが生存そのものであるとも言えるでしょう。しかし、ここ数十年、社会の変化や科学技術、情報技術の進歩によって、人のさらされる環境は大きく変わってきました。では、近代化にともなう人間の生活環境の変化は、自律神経にどのような影響を与えるのでしょうか。
ストレスとなる要因の増加
現代社会では、便利さや快適さと引きかえに、長時間労働、不規則な生活、運動不足、睡眠不足、食事のかたより、通勤ラッシュ…等々、体にとってストレスとなる要因が数多くあります。体はこれらのストレスに対応するため交感神経を興奮させ、乗り越えようとします。
このような交感神経が優位な状態が続くと、血管が収縮し血流が滞ることで、血栓ができたり、血管が詰まりやすくなったり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など様々な病気を促す一つの原因になり得ます。副交感神経優位が長く続く状態よりも、交感神経優位が長く続く状態の方が、病気になるリスクは高まると言えます。
現代ならではの具体的なストレス要因を、もう少しみていきましょう。皆様もいくつか思いあたるものがあるのではないでしょうか。
スマホやパソコンを見続ける毎日
スマホやパソコンの使用は自律神経の働きに影響を与えます。それらの機器が発するブルーライトの強い光が、メラトニンという睡眠ホルモンを生成する脳の松果体への交感神経の働きを抑え込んでしまうために、メラトニンの分泌が低下し、不眠の原因となる場合があります。
また、スマホやパソコンの画面に集中し、適切に情報処理をするために、交感神経の活動が活発になります。同時に、近くの画面を見ようとすることで、目のレンズの厚みを調整する副交感神経の働きも高まった状態が続きます。このようにスマホやパソコンの過度な使用は、脳と交感神経の興奮が続くと共に目の副交感神経を過度に活動させ、自律神経に大きな負荷をもたらしています。
食生活の影響
近年の研究によって、腸内環境が腸管神経系と呼ばれる自律神経を介して脳に影響を及ぼしていることが明らかになってきました。腸内フローラと呼ばれる腸内細菌叢の多様性を保つことが、体調を整え、免疫力の向上やメンタルヘルスの安定に繋がってきます。
外食やファストフードなどで食生活が単調になったり、かたよった食生活による食物繊維の不足などが腸内環境を悪化させ、様々な不調の原因に繋がります。
経験したことのない高温や豪雨
人間の活動がもたらした気候変動によって、過去に経験したことのない高温や豪雨を体感することが多くなってきました。2025年の夏の平均気温は、1898年の統計開始以降、最も高い値となりました。1898年と比較すると、2.36℃上昇しています。
ニュースでも取り上げられるように、夏に熱中症で運ばれる人の数も増えてきています。これは経験のない気温に自律神経による体温調整がついていけなくなっていることを示しています。平均気温は上昇し続けており、自分の体と自律神経をこれまで以上に守っていく必要があります。
気候変動による猛暑が続き、エアコンが生活に欠かせなくなりました。しかし、長い時間エアコンの中で過ごすことで、手足の冷えや肩こり、頭痛などの不調を感じる人も少なくありません。俗に冷房病と呼ばれることもあります。これは、長時間エアコンのきいた室内で過ごしたり、気温差のある屋外と屋内を行き来したりすることで自律神経が適切に対応できなくなり、体温調節が上手くできなくるために引き起こります。
また、いつ起こるか分からない記録的な豪雨や、年々規模が大きくなっている台風などの備えに、交感神経が過度に警戒モードとなってしまい、不安や心労が積み重なり疲弊されている方もいらっしゃられるかと思います。そのような状態も長く続けば、慢性化し、心身共に元通りに回復しづらくなってしまいます。早め早めのセルフケアが大切になってきますので、「気のせい」で済ませないようにされて下さい。

当院では、自律神経失調症をはじめ、
睡眠障害(不眠症)、うつ病、躁うつ病、不安症、
パニック症、摂食障害(過食症)、適応障害、
月経前症候群(PMS)、統合失調症、強迫性障害、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群、更年期障害、心身症など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
なお、自律神経失調症の漢方薬による治療をご希望の患者様は、
診察時に医師の方にぜひご相談下さい。
当院のような心療内科では、
健康保険適用で処方することも可能です。
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:『Newton 別冊 体を整える自律神経の取扱説明書 改訂版』


