2020年初頭からはじまった新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的な感染拡大は、人々の生活に大きな影響をもたらしました。新型コロナウィルスに感染する被害だけでなく、集団感染を防止するために三密(密閉、密集、密接)を避け、人と会う際はマスク着用し、ソーシャルディスタンスを保つことが求められる等、人々の生活が大きく変化しました。
オンライン授業や在宅勤務が増え、人と会わない、話さない、家から出ない生活が続きました。それまで当たり前であった、人と会う、話をする、同じ職場で仕事をする、食事を一緒にする、という人としては基本的な社会生活が制限されるようになりました。
このようなコロナ禍における生活環境の変化がストレスとなり、自律神経の働きにも影響を及ぼしたことは指摘されています。「コロナ疲れ」「自粛疲れ」と言われる原因の分からない慢性疲労や頭痛、めまい、手足の冷えといった身体の不調を訴える人が増えたのも事実です。

コロナ禍の生活環境と自律神経
このような社会生活の制限は、人の健康にも異変をもたらしました。2021年に公表された経済協力機構(OECD)によるメンタルヘルスに関する国際調査の結果によると、うつ病症状を有する日本人の割合は、コロナ禍前の2013年には7.9%であったのが、コロナ禍がはじまった2020年には17.3%と2.2倍に増加しています。
アメリカも2019年比で3.6倍、イギリスでも同2倍と、新型コロナの自粛要請(海外ではロックダウン)などの外出制限、経済的、社会的不安がメンタルヘルスに深刻な影響をもたらしていることが伺えます。特に若い世代や失業者といった経済的に不安定な人でこの傾向が強かったことが指摘されています。
また、2009年以降は減少傾向が続いていた自殺者数も、コロナ禍が始まった2020年に増加に転じました。特に2020年に女性の自殺者が増加しました。
コロナ禍が、このように人々のメンタルヘルスに大きな影響をもたらしたのは何故なのでしょうか。
人は、ある種の脳内物質の分泌によって、不安感が抑えられ精神安定に保たれています。この物質には、セロトニン、ドーパミン、オキシトシンなどがあります。オキシトシンは母子間をはじめ、家族団らん、友人とのふれあいなどのスキンシップによって増える物質で、不安や恐怖心を和らげ、社交性を高める役割を果たしています。コロナ禍の外出自粛やソーシャルディスタンスによって、人との直接のふれあいが減り、オキシトシンの生成が妨げられたことが考えられます。
また、脳と腸は自律神経を介して互いに影響し合う関係(これを「脳腸相関」と言います)になっています。セロトニンはストレスを軽減し精神を安定させる働きがあります。ドーパミンはやる気を起こす脳内物質ですが、これらセロトニンの90%、ドーパミンの60%は腸などの消化管でつくられます。コロナ禍によるストレスによって腸内環境が悪化すると、これらの物質の生成が阻害される可能性があります。
さらに脳腸相関によって、脳が腸内環境の悪化の影響を受けることで、脳内も影響を受けます。このようにコロナ禍におけるメンタルヘルスの低下や心身の不調は、ストレスや運動不足、食生活の変化など生活習慣が関わっていると考えられています。

コロナ後遺症と自律神経異常
現在、免疫の異常で自律神経が攻撃される自己免疫の病気、自己免疫性自律神経節障害(AAG)が注目されています。めまいや動悸、立っていられない(起立不耐)といった自律神経症状が約90%の人に見られ、ほかに便秘や排尿障害、思考力低下、抑うつ傾向などの症状があります。病原性の「自己抗体」が自律神経の働きを乱すと考えられています。診断基準や治療法は確立していません。
コロナ後遺症でみられる思考力低下(ブレインフォグ)などの症状は、AAGの症状とよく似ていることが指摘されています。AAGはその1~2割が、風邪などのウィルス感染をきっかけに発症することが知られています。
ウィルス感染に対する免疫系の働きによって、自律神経の受容体に対する自己抗体が生じ、それが自律神経節を攻撃することで、起立性低血圧や発汗低下、排尿障害など、広範な自律神経障害が起きます。
コロナ感染によって、自律神経に対する自己抗体が生じることが報告されており、コロナ後遺症もAAGと同様のしくみで自律神経障害が発症している可能性が指摘されています。AAGの診断基準の策定と治療法の開発がコロナ後遺症の治療にも繋がることが期待されており、厚生労働省のAAGの研究チームが2022年に発足、研究成果を踏まえ、今後国内患者数の把握などの全国的な調査や最終的な診断基準の策定が進められる予定です。

当院では、自律神経失調症をはじめ、
うつ病、躁うつ病、不安症、睡眠障害(不眠症)、
パニック症、摂食障害(過食症)、適応障害、
月経前症候群(PMS)、統合失調症、強迫性障害、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群、更年期障害、心身症など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
なお、自律神経失調症の漢方薬による治療をご希望の患者様は、診察時に医師の方にぜひご相談下さい。当院のような心療内科では、健康保険適用で処方することも可能です。
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:『Newton 別冊 体を整える自律神経の取扱説明書 改訂版』


