深刻な疲労状態に陥っているにも関わらず、疲れを自覚できないことがあります。激務をこなしているにも関わらず、自分は疲れていないと感じている人は要注意です。この状態は、一般的に「サイレント疲労」や「隠れ疲労」と呼ばれていますが、正しくは「疲労感のマスキング」と呼ばれる現象です。過度なストレスや疲労状態が続いている時に、疲労感のマスキングが起きやすくなります。
脳が疲労を無視する指令を出す?!
疲労感のマスキングには、大脳の三つの部位が関連します。一つが、眼の後ろ付近にある「眼窩前頭野(がんかぜんとうや)」です。快不快、報酬、価値判断などを司る部位です。二つ目が、額の後ろ付近にある「前頭前野背側部(ぜんとうぜんやはいそくぶ)」です。情報の取捨選択をして意思決定や行動を制御します。三つ目が大脳の内側にある「前帯状回(ぜんたうじょうかい)」です。自律神経や情報の制御を司ります。
通常は、自律神経を通じて疲労のシグナルが前帯状回に上がってくると、そのシグナルが眼窩前頭野に送られ、「疲れている」という判断を下します。さらに眼窩前頭野は、判断した「疲れている」という情報を前頭前野背側部に伝えます。すると、前頭前野背側部は集まってきた様々な情報の中から、眼窩前頭野由来の疲労の情報を選択し、休息の行動をとるよう指令を下します。
ところが、仕事の締め切りに追われているなどの過大なストレス下においては、前頭前野背側部が「もっとがんばらなければならない」と判断して、眼窩前頭野由来の疲労のインプットを抑え込んでしまいます。つまり、「テストが迫っている」「発表前で緊張している」といった集中・緊張状態にある時、身体が疲労感を感じなくなるのは、この前頭前野背側部が疲労を無視することで起きるという訳です。これが、疲れているのに疲労感がマスキングされるメカニズムです。

正しい判断が出来なくなることも…!
疲労感のマスキングは、生体アラームを無視している状態です。放っておくと疲労がどんどん蓄積していき、心身な危険な状態に陥ります。まず、自律神経系の乱れが続くことにより、心拍数の増大、高血圧、高血糖、不眠などが起こります。また、免疫系が抑制されて、感染症や癌、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などに至るリスクも高まることが分かっています。最悪の場合、突然死(過労死の一部)を招きかねません。
さらに、前頭前野背側部の機能が極端に低下することで、正しい認知や判断が出来なくなります。集中力や意欲が著しく低下(いわゆるバーンアウトの一種)し、うつ病や不安症などの発症リスクが高まることが明らかになっています。
このような疲労感のマスキングは、カフェインや栄養ドリンクを飲んだ際にも起こります。カフェインは、眼窩前頭野が発生する疲れのシグナルにブレーキをかけてしまいます。それによって交感神経は過剰に活性化されたままとなり、眠気を感じなくなって活動を続けられるという訳です。
このように、疲れている起きに栄養ドリンクやコーヒーを飲み続けて、疲労をごまかすのは非常に危険だとされています。何故なら、疲労がどんどんたまり、後にカフェインを飲む前よりも酷い疲れが出てしまうからです。実際にこのことは、研究結果からも報告がされています。

隠された疲労に気づくには?
疲労感がマスキングされていると、自分では身体の疲れを把握できません。では、どうすれば、自分の疲労の程度が分かるでしょうか。それには「瞑想」が推奨されています。3分間くらい目をつむって静かにした上で、自分の疲労の状態を改めて感じてみるのです。この時、だましだまし活動をしていた場合、瞑想後にどっと疲れを感じると言われています。
休息のことを「一息つく」と表現するように、深呼吸をして、呼吸を落ち着かせると、脳の疲労感を抑制しているシステムが少し弱まるのです。それによって、マスキングされていた疲れが分かるようになります。

当院では、自律神経失調症をはじめ、
睡眠障害(不眠症)、うつ病、躁うつ病、不安症、
パニック症、摂食障害(過食症)、適応障害、
月経前症候群(PMS)、統合失調症、強迫性障害、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群、更年期障害、心身症など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
なお、自律神経失調症の漢方薬による治療をご希望の患者様は、診察時に医師の方にぜひご相談下さい。当院のような心療内科では、健康保険適用で処方することも可能です。
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:『Newton 別冊 体を整える自律神経の取扱説明書 改訂版』


